14年前の記事:「坂本龍一、インターネット活動計画の全貌を語る/ネット・インディーズ構想から、ライヴのリアルタイム中継まで!」

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月刊デジタルボーイ 1995/12 (毎日コミュニケーションズ

New Album/D&L Tour Special Interview 取材協力/桝山寛
RYUICHI SAKAMOTO

坂本龍一、インターネット活動計画の全貌を語る
ネット・インディーズ構想から、ライヴのリアルタイム中継まで!

{略}
坂本: {省略} ライブの様子をネット上で世界中にリアルタイム・ブロードキャストする計画があります。これはM-BONEという実験用の帯域を使い、WIDEという組織の技術協力で11月30日の武道館公演を予定しています。

──ビッグニュースですね!武道館にいけない人は、どうすれば見られるのでしょうか?

坂本: {省略} M-BONEを使ったライブ中継は、去年の秋にローリングストーンズがやりましたが、「D&L」は大規模なものとしてはその次ということになります。この1年で技術が進歩しているので、ストーンズの時よりははるかにクオリティの高い音や映像になるそうです。もちろん、トラフィックの混雑にはできる限り配慮した仕組みを考えています。

──そこが難しいところですね。坂本さんがライヴ中継をすると、「ネットをマスメディアの替わりにするのか。」といった意見も出てくるはずですから。では、もう少し長期的にネット上で計画されていることはありますか。

坂本: 私にとって、インターネットは新しいマスメディアではなく、基本的に「個人のためのメディア」だと思っています。理想主義的にいえば、政治体制を直接民主主義にしてしまう可能性さえをも秘めた技術と考えることもできるわけです。
 将来的な部分で興味があるのは、ネットインディーズ、音楽のインディーズレーベルです。ネット上で、デビューし、プロモーションをし、音楽を聴かせるわけですね。現状では音のファイルサイズが大きくて、転送するのに時間がかかるということがネックですが、いずれ世界中のネット・インフラが整えば、販売することも可能になるでしょう。そうすると制作的な機能、CDの生産、広告、流通、小売…等が全部ネット上でやれることになります。個人から個人へ、直接発信できるということですね。
 ニコラス・ネグロポンテ風にいえば、私は十年位前から「アトム(物質)」に情報を乗せて売る、という形式に不満を持っていました。デジタル情報なのだから「ビット」の形で配ればいいわけで、実際にある企業にいって「そういうことをやりましょう。」と話したことがあります。ほとんど理解してもらえませんでしたが(笑)
といっても、すぐに現行のCDが無くなるということはないでしょう。アトム(物質)に乗せて売ることも、今後最低10年くらいは並行していくと思います。これだけネットやデジタル技術が発達しても、本という紙メディアがなくならず、逆にコンピュータの新雑誌がどんどん増えて並行して存在しているのと同じように。

──そういう話になると、当然考えなければならないのは著作権の問題ですね。もっと簡単にいうと、デジタルメディア時代のクリエーターはどこで生活を成り立たせるか、という…。

坂本: 私も著作権者の一人なので、自分の著作物の複製行為をどう防ぐかということに関心はありますが、実は防ぎようがないんです(笑)。現在ですとビニール盤の12インチとCDのバージョンが違うように、Net用にバージョンを変えるとか…。ただ、情報が渡った先での複製は止められないんです。CDだってカセットテープにコピーされているわけですから、複製を止めることができないということに関しては同じなんです。そういう状況の中で、どうやって著作権料を徴収するかということですね。
現在のシステムですと、著作者が何かを作ると、それはそのままだとマス(消費者)に渡すことができなかったので、第二者、つまり複製をするレコード会社とか出版社がいて、複製してあげて、消費者に届けています。その複製行為に関して権利関係を決めて、収入を得ているわけです。デジタル・ネットワークが本格的に普及したときには、それがなくなるわけですから、著作行為、創造をする行為自体に価値があるのだという風に、全世界的に倫理的な考え方を改めなくてはならないと思います。
 そうした「ネット時代の著作者/著作物のあり方」を全世界的なコンセンサスにするための布教活動(笑)についても、構想があります。ネット上で創造行為を行っている音楽家とか絵描きとか物書きとか、そういう人たちの「ユニオン」的な組織を全世界的なものとして作って、自分たちの著作行為を守ろうという動きを具体的に始めるつもりです。

{以下略}